大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(う)482号 判決

鑑定人佐竹隆三作成鑑定書第五章三、責任能力についてと題する項中に「被告人は、生来性の精神薄弱であつて、知能検査の結果では正常発育をなした七、八歳の小児に、漸く匹敵する知能しか持つていない」旨の記載が存することは、所論の通りであるが、さらに同項には「併し、勿論成長の域に達した者の知能を、正常児童のそれと比較するのであるから、この結果を文字通り解すべきではない。被告人の精神年齢を七、八歳の小児に比したのは、一つの類推に過ぎないのであつて、被告人の具体的体験を通じて得た日常の具体的知識や行動力が正常七歳児の示し得るところでないとしても別に不審はない。(中略)要するに本犯行は、被告人の先天性の知能欠陥と、これに伴う性格異常に基く、異常な精神状態の下に行われたものであり、この異常の程度は、法家の所謂心神耗弱に該当する。」旨の記載が存することをも、また、認め得べく、従つて、右鑑定は、被告人の心神の状況が七、八歳の小児と同一である旨断定したものでないことが明白であり、また、同鑑定書第六章鑑定と題する部分に「一、被告人の現在に於ける精神状態、被告人は現在、性格異常を伴う精神薄弱者であり、其の程度は重症痴愚の段階である。二、被告人の昭和二十八年五月十七日当時に於ける精神状態、被告人は五月十七日当時、現在と同様、精神薄弱の段階にあり、且、犯行時は衝動性格の基盤の上に発呈した機会的感動状態にあつた。」旨の記載が存し、且、同章三、参考事項と題する部分に「責任無能力」なる用語を使用した個所の存することは所論の通りであるが、さらに同章三、参考事項、なる項の記載内容を精査すれば、該記載は、「被告人の犯行は精神薄弱なる知能の欠陥と、特異な易怒性の性格に基くものである。この異常の程度は、法家の責任無能力若しくは心神耗弱に該当する。」と言うにあり、従つて、右鑑定は被告人の精神状態をもつて、「責任無能力」に該当する旨断定したものでないことを認め得る。論旨は、右鑑定書中前記論旨援用部分を根拠とし、被告人が本件犯行当時、心神喪失の状態にあつたことを主張するものであるが、案ずるに、刑法に所謂責任能力なる観念は、法律上の概念であつて、心理学的、又は精神医学的観念でなく、従つて被告人が心神喪失者であるか、心神耗弱者であるかの問題は、専門家の意見を参考とし、法律の理念及び目的に基き、裁判所に於て、これを判定すべきものであることは、言う迄もないところであつて仮令、鑑定書中に、「被告人の知能は、七、八歳の小児に匹敵する」旨の記載があつたとしても、同鑑定書中にも明言する如く、「右は知能検査の結果に依る一つの類推に過ぎない」ことを知るに於ては、これを目して直ちに、被告人をもつて、刑法第四十一条に定める「十四歳に満たざる者」なりとし、その行為をもつて、罰すべからざるものとなすを得ないこと、勿論であるのみならず、前記鑑定書記載の趣旨全体を統一的に把握し、これに記録によつて認め得る諸般の状況を綜合考覈するときは、本件犯行当時に於ける被告人の精神状態は、事の是非を弁別し、且、これに基いて行動する能力を備えていなかつたものでなく、単に其の能力に欠陥があつたことを認定し得るに過ぎず、従つて、当時の被告人の精神状態は、刑法第三十九条第一項に定める心神喪失に該当せず、同条第二項に所謂心神耗弱に該当するものであることを優に肯認するに足るから、論旨は其の理由がない。

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